ふとっちょおばさん、「障害は個性」って本当なのかな?

Posted on 2008年9月3日. Filed under: 読書 | タグ: , , |

「ふとっちょおばさん」というのは、サリンジャーのグラースサーガという一連の小説のひとつのなかで、精神的に参ってしまった妹のフラニーにお兄さんのゾーイがする話に出てくるおばさん。「神は遍在する」の象徴みたいな人だとぼくは解釈している。唯一絶対神は信じられないけど、いたるところに存在する神様と話せたら楽しいだろうなぁとよく思う。

で、本題。

今日tumblrやってて気になった、より厳密に言うと自分がなんでああいうことを書いたのか気になったのが、このポスト。

茄子の見方 – 「将来息子が自分の意志で立ち上がり表舞台に出て何かを発する時は(…)
http://nasunet.tumblr.com/post/48559888

(便宜的にnasunetさんのtumblrから引っ張ってるけど、流れ的に現時点で最後の方だったからで強い意味はない。また、これから書く内容はこの流れに対する直接の反応ではない。が、こういう反響がつながっていくのはtumblrっぽいのでせっかくなら、ということで)

障害は個性」という主張に感じた強い違和感について、ぼくがそういう見方をするに至った根拠を思い出したので、丸々引用しておこうと思う。この本から。

その箇所はちょっと、というかすごい長いけど引用しておく(本当はもっと長い)。

1 障害は個性なんかじゃない!

●妻の遺影

人が互いの悲しみを分かち合うのは、喜びを分かち合うよりも、ずっと難しいことのように思います。けれど、僕の盲学校の先輩が味わった悲しみには、同じ障害を背負わされたものとして、察するに余りあるものがありました。

点訳ボランティアだった女子学生と結婚した、目の見えない先輩がいました。盲学校から一般の大学に進学した先輩の教科書を点訳してくれたのが彼女で。それが縁となりました。結婚して18年、2人の子供にも恵まれ幸せに暮らしていたのに、ある日、彼女がガンという病魔に冒されていることが分かったのです。

その日は朝から冷たい雨が降っていました。突然の別れでした。まだ高校生と中学生の2人のお嬢さんと、そして先輩を残して、彼女はあっけなく逝ってしまったのでした。
葬儀で挨拶に立った先輩は、
『私には、妻の遺影を選ぶことができませんでした。娘に母親の遺影を選んでもらわなければならないなんて…』
搾り出すような声でそう言って。号泣しました。目が見えない先輩には、目が見えるお嬢さんに頼んで写真を選んでもらうしかなかったのです。
僕には葬儀の経験が少なく、遺影のことなど考えたこともありませんでしたが、話を聞いてはっとさせられました。先輩の気持ちが痛いほどわかりました。ただでさえ妻を亡くした悲しみに暮れているのに、そんな時にも自らの障害と向き合うことを余儀なくされてしまうのです。どんなに悲しかったことでしょう。口惜しかったことでしょう。
この悲しさ、悔しさ、辛さこそが、障害というものの本質なのではないでしょうか。

●障害は個性なんかじゃない!

誰が言い出したのか、この世の中には『障害個性論』なる価値観が吹聴されています。曰く、『障害は個性だ。不便だけれど、不幸ではない』。そして、『目は見えなくても、心の目がある』。幼い頃に盲学校の教師や両親からしつこく聞かされたこの言葉も、『障害個性論』と同じで、僕には慰めにしか聞こえませんでした。
確かに、目が見えようが見えまいが、心の目は誰もが持っていると思います。けれども、それはあくまで、人の心だけ見える─優しい心、きれいな心も見えるけど、傲慢で醜い心や差別、世の中のちっぽけな価値観もよく見える─心の目なのです。
『障害個性論』は障害者の強がりであり、社会が障害者への責任を回避するための体の良いすり替えだと思います。『心の目』だって、しょせん気休めです。僕にとって目が見えないということは、個性にしてはあまりに重たすぎます。そして『不便』と呼べるほど軽いものではないのです。

最愛の人の遺影を選んであげられないことは、やはり『不幸』です。交通信号が見えないとか、駅のタッチセンサー式の自動販売機で定期券を買えない程度のことなら、『不便』の範疇かもしれません。しかし、その駅のホームから誤って落ちて電車にひき殺されることまで『不便』で済まされるでしょうか。それは『不幸』以外の何物でもありません。ましてや『個性』などであろうはずもありません。

障害者が自らの境遇をどのように捉えて生きていくか、それは人それぞれの自由です。障害を個性と捉えるのも、不幸と感じるのも、その人が前向きで一番安らかな心持ちでいられるように考えれば良いと思うのです。しかしたとえ障害者であっても、自己の強がりや価値観を他の障害者にまで押し付けるのはやめてほしいと思います。

何事にも多様性を認めないこの国の悪い癖なのか、『障害個性論』が出てきてからは、全ての障害者がそれを受け入れなければならないかのごとき圧力を感じるのは、決して僕一人ではないはずです。
許せないのは、福祉施設の職員やボランティア、評論家もどきなど健常者が『障害個性論』をぶち上げていることです。しかし、そのわりには、障害個性論を信奉する健常者が、自ら障害という『個性』を選択し、見える両目をどぶに棄てて心の目に取り替えたという話は、未だかつて聞いたことがありません。それどころか、日ごろから障害者を相手にえらそうに生き方を説いていた福祉施設の職員が、いざ自分や家族が障害者になったら、とたんにあたふたしてしまったという話はよく耳にします。結局のところ、この種の健常者は、自分は安全な場所にいて、さほど考えもせずに障害個性論をお題目のように唱えているだけなのです。

」(248~251ページ)

あー長かった。
でも、改めてこの件を咀嚼してみるにはこれぐらいの引用が必要だと感じた。

(こんなに沢山引用しちゃってすみません、作者の川田さん。知り合いでもなんでもありませんが)

改めてこの一節を読み、ぼくが思ったことを書いておく。

少なくとも「障害は個性だ」と言われたら気分を害する障害者がいることがわかったとき、ぼくら健常者が熟慮なしにそういう論調に乗るべきじゃない。彼らの苦衷を想像してみる努力もせずに、個性なんだから受け入れなさい、なんて到底言えないはずだ。

(健常者の親が障害者の我が子に対して障害個性論を教えるかどうかについても、時期や伝え方などについて、十分に考えた上でなければいけないものだと思う)

障害を「個性」と言い換えるなら、言い換えるメリットがデメリットを上回っていると確信が持てる社会になってからにすべきだろう。そのためには、ぼくら健常者がまず、たとえば障害者が日々感じる不便について、もっと知ろう、改善しようと努めるべき。

あぁ青臭い。道徳の教科書みたいになってしまった。
でもこの通りに思ってるので、オープンにしておく。

意見、指摘などあればお気軽にどうぞ。

4件のフィードバック to “ふとっちょおばさん、「障害は個性」って本当なのかな?”

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ダウン症を子供に持つ親として
「そんな人生も悪くないよ」
いろんな程度があると思うけど、人生そんなに捨てたもんじゃない

目の見えない川田氏の苦悩はきっと僕にはわからない
でも、全盲だからこその人生もあるんじゃないのかなぁ
楽観しすぎ?

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@がうさん

コメントありがとうございます。

考えるべき点として、障害者本人、障害者の肉親、健常者がどう考えるべきかという視点と、また障害の程度という視点も必要なんでしょうね。

ぼくのこのエントリーは、周りに障害者と呼べる人もあまりいないぼくのような人間が「障害は個性」をどう考えるべきだろうか、と考えて書いてみたものでした。

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「個性」について混乱があるように思います。
個性であるか否かは「個特有の性質であるかどうか」「独特であるかどうか」で決まるものであって、障害か否かとは本来まったく関係ありません。全盲者は我々にとってはレアリティの高い個性的な存在ですが、盲学校では凡庸な存在でしょう。
そして、「個性かどうか」と「個性があって、結果どうなのか」もべつの話です。個性かどうかと、その結果がたとえば、良い/悪い/良いし悪い/良くも悪くもない、のどれになるかはべつのことであって、個性でありさえすればどう、個性でなくさえあればどう、というようなものではないはずです。
なのにどうも世間では、個性=つねに長所、というような決め付けがあるように思います。だから「障害などではなく個性である」「個性は(悩んだり脱却したり克服したりするものでは絶対になく、かならず)受け入れるべきもの」「個性は(否定したり直したり補ったりするものでは絶対になく、かならず)大切にすべきもの」というような偏った見方が出てくるのではないでしょうか。

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一般的には常識とされている普遍的なテーマ、例えば

 真実は一つだけ
 怒りは自然な感情
 戦争は無くならない
 虐められる側にも原因がある
 この世に絶対や奇跡や偶然はある
 自己チュー人間ほど自尊心・自己愛が強い

などといった命題の間違いとその論拠を解説しています
義務教育では殆ど教えない哲学です。是非ご一読ください

感情自己責任論  http://sky.geocities.jp/dwhsg178/

今後益々のご活躍を期待しています
突然失礼しました

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