「海底で履く靴には紐がない ダブバージョン」(オフィスマウンテン)感想

Posted on 2019年1月17日. Filed under: 演劇 |

なかなかバタバタしていてやってる場合じゃないけど、感動を忘れないうちに書き殴っておく。

こまばアゴラ劇場で「これは演劇ではない」というフェスティバルが行われており、今年に入って正月3日からもう6本と、かなりハイペースで芝居を観た。結構疲れた。

で、なかでも一番印象に残ったものがある。昨夜(2019年1月16日)観た、オフィスマウンテン『海底で履く靴には紐がない ダブバージョン』だ。


山縣太一という、雰囲気的にはムロツヨシにもちょっと似た俳優による一人芝居。

yamagata

はじまった瞬間“あ、ダンスか…”と少しガッカリした。前衛的ダンスみたいな演目は実はこれまでも観に行こうと思ったことがあるのだが、予習としてYouTubeで観たりしてもよさがほとんどわからなかったからだ。

が、観ながら痛感していた。舞台で行われる生の演技をリモートで観るというのは、言ってみるなら超高級な霜降り肉をラップをかけた上からペロペロ舐めているようなもので、まったく伝わらない。だからわからなかった。愚かだったなぁ、俺は。

スーツを着た彼が、自分の身体に違和感を感じているようなおかしな所作を繰り返す。SF映画で、エイリアンに身体を乗っ取られた人物が一つの身体の中に複数の意思が存在するような動きをする、そんな感じだ。
“これ、随意筋を不随意運動のように扱ってみるダンスなんだろうか?”
“人の身体でやるパルクール(動作鍛錬)みたいなものかな?”
目の前の奇態な動きを自分のボキャブラリーでなんとか分類しようとしながら観るうち、やがて没入していた。

面白いのは、彼のダンスは会場の動きにも影響を受けることだ。客が誤ってスマホを落とすと反応する。別の回では、外を走る電車の音(こまばアゴラ劇場は井の頭線の音が少しだけ聞こえることがある)、観客のシャッター音(スマホでの撮影を許可した回もあったらしい)などにも応えたらしい。

後半、彼が“ちょっとちょっと、ぼくの話を聞いてくれるかな?”と言葉を発しはじめた。舞台中央の二つのイスにいる架空の人物に向かって話すように。サンプリングのようにその言葉は繰り返され、しかし少しずつブレていきながら状況を明らかにしていく。男は同僚の男女に語りかけており、3人で居酒屋へ行こうと誘う。男女は社内恋愛をしていることがやがて明かされる。
こう書いてもちっとも伝わらないだろうが、男の逡巡や忖度やいやったらしさやみじめさが伝わってくる、日常の断片描写なのだ。

全身を総動員したポエトリー・リーディングのようだな、と思った。

最後。架空の男女と居酒屋で酒を飲むとき彼らにタバコの煙がかからないように、唇を“こうしたの”という言葉と口の動きが繰り返される。が、口は“こう”(タバコを吹きかけない)という動きにはならない。観客のうち何人かと1人ひとり目を合わせて、そのジェスチャーを憑依させようとしたようだった。
なんだこりゃ…(驚き+賞賛)。


これ一体ジャンルは何なんだろう。こういう境界線上の面白さってあるものなんだろうか(あったのだが)。

オフィスマウンテン/山縣太一、覚えておこう。ちなみに彼はあの(どの)「チェルフィッチュ」の所属俳優でもあるらしい。

1件のフィードバック to “「海底で履く靴には紐がない ダブバージョン」(オフィスマウンテン)感想”

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[…] 1月に観たもの(『海底で履く靴には紐がない ダブバージョン』)と比べ、演者が3人になったことでノイズが輻輳するような交錯感がより高まった。逆に、断片的な台詞が円環構造のように繰り返されていき徐々に情景がわかってくるスリルのようなものは少し弱まった気がした。 […]

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