映画「おいしいコーヒーの真実」:貧しいコーヒー農家のためにフェアトレードコーヒーを、では済まない問題を覗いた

Posted on 2008年4月29日. Filed under: 未分類 | タグ: , , , |

おととい(2008年4月27日)、映画「おいしいコーヒーの真実」の先行上映とトークライブのイベント(東京・渋谷 UPLINK FACTORY)に行ってきた。

(※この映画の一般公開は2008年5月31日。以下の内容は、当然ネタバレ(Spoiler)を含みます。観るつもりの人は自己責任で)

映画『おいしいコーヒーの真実』公式サイト
http://www.uplink.co.jp/oishiicoffee/
Black Gold : A Film About Coffee And Trade
http://www.blackgoldmovie.com/

FACTORY | フォレステーション VOL.19 「フェア」
http://www.uplink.co.jp/factory/log/002582.php

5月の公開に先駆け、ドキュメンタリー作品「おいしいコーヒーの真実」の先行上映会を行います。上映後、コーヒーにまつわる基礎知識から、国家間貿易モデルのあり方まで、専門家の方々の意見を交え、トークショーを行います。ご来場いただいた皆様と、新しい世界のあり方を考えてみたいと思います。

最初に、この映画へのぼくの評価を書いておく。

この映画が直接描いているのは、エチオピアのコーヒー農家の困窮という辛い状況だ。問題への関心を深めることができる点ではよい。が、適切なフレーム・オブ・リファレンス(問題認識の枠組み)を与えてくれるかどうかという点では、ちょっと厳しいんじゃないかと思った。

話は、エチオピアのオロミア州という貧しいコーヒー産地の農協の代表、タデッセ・メスケラ氏がセールスのために欧米をまわる姿と、西欧諸国でコーヒーが嗜好品としていかに愛されているかを交互に紹介しながら進む。

エチオピアはコーヒー発祥の地。アフリカ最大のコーヒー産地であり貿易収入の7割弱をコーヒーに頼っている。が、「コーヒーの価格は悲しいほど安い」。先進国ではコーヒー(トールサイズ)が330円するが、それに占めるコーヒー豆の原価は1~3%だという。

メスケラ氏の話に戻ると、彼が消費国を飛び回る姿はエチオピアの窮状と共にヒロイックに描かれている。が、やや冷めた見方をすれば、どんな国のビジネスパーソンだってこういう苦労をするんじゃないかなぁ、とも思う。

コーヒー豆の価格下落には、背景がある。1989年、「国際コーヒー協定」の破綻だ(と映画内では説明されていたが、調べてみると、国際コーヒー機関による協定の輸出割当制度のみ停止、のち削除という流れ via 国際コーヒー機関 – Wikipedia )。

コーヒーの価格は、ニューヨークとロンドンの先物市場で決まる。特にNYの価格が基準値になっているという(映画には出なかったが、NYはアラビカ種、ロンドンはロブスタ種を扱っているらしい)。
一方で、イタリアのilly社はNY市場が扱う普及品ではこだわりの味は出せないと扱わず、NY市場に従うことは高品質な豆の産地を脅かすという理由で別ルートで調達するロンドンの会社も登場する。

また、コーヒーの製造・焙煎では多国籍企業であるクラフト、ネスレ、プロクター・アンド・ギャンブル、サラ・リーの4社が強い力を持つ(この映画の最後には、4社から取材を拒否された、と出る)。

1971年に開業したシアトルのスターバックス1号店の、誇りに満ちた女性店長へのインタビュー映像の後、そのスターバックスも使うコーヒー豆を生産するエチオピアのシダモ( スターバックス コーヒー | エチオピア シダモ )地区が飢餓に見舞われ、栄養補給センターで子供が泣き叫ぶ姿が映る。
この対比はショッキングだ。これを見たとき強く感じたのは、「世界はフラットになったとかなんとか言うが、全然つながっていないな」ということ。

一方でこのあたりでは、「他の国のコーヒー産地も、エチオピア並みにひどいんだろうか?」という疑問も湧いた。

後半、やや唐突に2003年のWTO(世界貿易機構)閣僚会議(メキシコ・カンクン)の場面に移る。アフリカの代表やNGOは、ECやアメリカの自国農業保護のための補助金をめぐる交渉に臨むが、数の面でまったく太刀打ちできず、不利な交渉を強いられる。
ここでぼくは、「なるほど、先進国の自国農業保護政策のひとつにコーヒーも含まれているから、途上国のコーヒー産業は悲惨なんだな」と思った。コーヒーは南北の貿易不均衡の象徴ということなのか、と。

ラスト、カメラはアフリカのジブチ共和国へ飛ぶ。そこで、アメリカ輸出用の小麦の袋詰め作業の現場をバックに「現在のアフリカは、かつてないほど緊急支援が必要な状況だ」「世界貿易にアフリカが占めるシェアは1%以下。それが1%増えるだけで全援助額の5倍に匹敵する」といったテロップが出る。

ちょっと構成がわかりづらいけど、この映画のメッセージは南北の貿易を公正なものにしろということか。
ただ同時に、この問題を考えるためには少なくとも以下のような点は調べてみたいと思った。

  • 他の国に比べ、エチオピアのコーヒー産業だけが困窮しているのか?
  • エチオピアでは、コーヒー産業従事者だけが特に困っているのか?
  • コーヒー産業では、生産者だけに不利な構造があるのか?

後半は、北澤肯さん( フェアトレードリソースセンター )、川島良彰さん( 日本サステイナブルコーヒー協会 )によるトーク。

このトークライブの、特に川島さんのお話で、納得できたり理解の手がかりが得られたところが多かった。

特に重要だと思った点は以下。

  • この映画は2003年から起こった「コーヒー危機(Coffee Crisys)」の時期を描いたもの。同じくコーヒー産地であるニカラグアでも飢饉が起きるなどひどい状況だった。
  • が、現在ではコーヒー相場は回復している。価格は1.6ドルまで上がっており、むしろ消費国のコーヒー産業の方が大変な状況。
  • 1997年に、NYコーヒー市場にファンド筋の投機が入ったため(注:ここ聞き間違いかも)暴騰した。その反動が2001年になって起きたのがコーヒー危機。コーヒー生産では、シェア3割を握るブラジルの動向が鍵を握ることが多い(例:価格暴騰→増産→ダブつき→価格暴落)。が、2001年の危機はコーヒーが投機対象になったために起こったもので、これまでとは性格が違う。
    (
    注:これのことか?
    アラビカコーヒーのハーベストプレッシャー
    http://www.ecommodity.co.jp/market/gud_050520_2.html
    1997年にもう一度大暴騰がありましたが、これは霜害の懸念だけで深刻な被害は無く、価格こそ大幅に上昇しましたが、5月には早々に天井となり、相場は下落しています。
    )
  • この映画は生産者に焦点を当てているが、価格や供給が不安定であれば当然輸出業者や消費国も打撃を受ける。生産国は、暴騰すると「ノンデリ」(契約不履行)することなどもある。
  • やはりコーヒー協定のような生産国・消費国の取り決めは必要だろう。
  • 生産者側も、フェアトレード、スペシャリティ、オーガニックなどオルタナティブな市場との関係を培っておくことは重要。
  • WTOの話が出てくるのは理由がわからない。コーヒーは保護品目ではなく、関係ないはず。
    (注:という話だが、「News headline 「コーヒー危機」の理解と解決策の検証(5)」では、米国市場(?)でのアジアやアフリカ産コーヒーをターゲットにした輸出障壁について言及あり)
  • エチオピアは植民地化されなかった珍しい国。なのに貧しいのは、部族間対立や支配層による搾取などの原因もある。自助努力も必要。「教育」はその鍵のひとつではないか(映画内、貧しいコーヒー農家たちが学校建設のためにお金を出し合うシーンがある)。

この映画を見る前、「貧しいコーヒー農家を救う切り札はフェアトレード!」と思い込んでいたが、そんな単純な話ではないと思った。

そのフェアトレードについての話もあり、特に納得したのは以下の点。

なるほど、フェアトレードは小規模農家を対象とすることが多いが、たとえばブラジルでは大農園も多い。そこで働く小作人の権利保護や、環境破壊も考えなければ、ということか。

(一応言っておくと、トークライブはこのような話ばかりだったわけではなく、ぼくが興味を惹かれた部分をメモっただけもの。)

ともかくこの映画、グローバル化と南北問題、自由市場の問題、生産国同士の対立など、大きな問題のいくつかの部分だけを取り上げている。問題の枠組みをきちんと示すという点で、舌足らずだ。
これを観て「コーヒー農家は(一様に)悲惨だ」「フェアトレードで解決できる」と理解してしまったら、それは短絡的だと思う。

が、このイベントに参加できたことはためになった。こういう映画を日本に紹介するために努力したり、応援したりする人たちにも敬意を表したい。

ぼくはもちろんこの問題の専門家ではなく、理解が浅い点や誤りもあるだろう。
そういう点は、コメント欄で指摘してほしいと思う。

参考になりそうなWebページを挙げておく。

News headline よく練れていないコーヒー産業の計画
http://tmr.or.jp/headline/1052392402.html
News headline 「コーヒー危機」の理解と解決策の検証(1)
http://www.tmr.or.jp/headline/1053410235.html
News headline 「コーヒー危機」の理解と解決策の検証(2)
http://www.tmr.or.jp/headline/1053411271.html
News headline 「コーヒー危機」の理解と解決策の検証(3)
http://www.tmr.or.jp/headline/1053477600.html
News headline 「コーヒー危機」の理解と解決策の検証(4)
http://www.tmr.or.jp/headline/1053478695.html
News headline 「コーヒー危機」の理解と解決策の検証(5)
http://www.tmr.or.jp/headline/1053567524.html

コーヒーから見える政治状況(20051221)
http://www.randdmanagement.com/c_seiji/se_145.htm

歴史的な南北の激突―カンクンWTO閣僚会議報告(その1)―
http://www.jca.apc.org/%7Ekitazawa/wto/wto_cancun_1_2003.htm
カンクンWTO閣僚会議報告(その2)
http://www.jca.apc.org/%7Ekitazawa/wto/wto_cancun_2_2003.htm

//このブログ書くのに半日費やしたー。

2件のフィードバック to “映画「おいしいコーヒーの真実」:貧しいコーヒー農家のためにフェアトレードコーヒーを、では済まない問題を覗いた”

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私も同じような内容をポストしていました。
同じ業種の一人としてこれからのサービスをとして楽しみにしています。

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>//このブログ書くのに半日費やしたー。
参考になるポストでした。
お疲れ様ですー

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