「ダイソーは必ず潰れる」 矢野社長の痛気持ちいい言葉(「社長の哲学」読書メモ)

Posted on 2016年7月15日. Filed under: 読書, 企業経営 | タグ: |

100円ショップのダイソーを知らない人はいないと思うが、その経営者である矢野博丈氏(株式会社大創産業 代表取締役)は有名ではない。Wikipediaにも「矢野はいわゆる経済団体に参加せず、経済誌などのインタビューもほとんど受けないため、マスメディアにあまり登場することはない」(矢野博丈 – Wikipedia)とある。

彼の発言を以前どこかのネットメディアで読み、ずっと興味を持っていた。で、有名な経営者だから本を出しているんでは──と検索してみたが、ない。かろうじて引っかかったのは以下の本だ。

イエローハット、MKグループ、ドトールコーヒーの経営者と共に矢野氏が登場するが、この本は講演録のようだ。だから正確には著書とはいえないが、それでも矢野氏の“魅力的な”言葉を味わうことはできる。

矢野氏のどこに魅力を感じるか。経営者は自社を取り巻く環境や将来について過剰に怖れを抱く(いわゆる)パラノイア的側面が多かれ少なかれあり、それが優れた経営者の資質だといわれることもある。大企業の経営者ともなればそういった側面をうまく糖衣でくるむ人が多いが、矢野氏の場合はむき出しなのだ。だから読んでいて“痛気持ちいい”と感じてしまう(ぼくの場合は)。

(ちなみに、ドンキの社長はもっとガツガツしている。)

以下、「社長の哲学」から自分用に抄録をまとめておく。

今、日本という国は本当に恐ろしい、厳しい、悲しい、すごい国になってまいりました。われわれ日本人の心の貧困、また日本人の劣化は目を覆うばかり。世界に誇れるような日本人の強い遺伝子を持った人がいなくなってきた。今さえよければいい、自分さえよければいいという人ばかりです。経済もまさに『祇園精舎の鐘の声』で、平家のようにつぶれていく寸前でありましょう。この日本をどう変えていけばいいのでしょうか。新たな啓蒙が求められている時代であると思います」

  • 20世紀は青い色、今は灰色。21世紀は思わぬ悪いことが起きる「守り続ける世紀」だ

「私は31年間この商売を続けていますけれど、最初のころは店頭販売をするために朝4時5時に家を出て、店先に6時ごろにつけて、商品を下ろしてベニヤ板の上に物を並べていました。準備が終わって、売る前に腹ごしらえをしようと喫茶店にモーニングを食べに行くと、商店街の親父さんがのんびりやってきてモーニングを食べていました。私たちは食べたらすぐに帰るけど、彼らはゆっくり新聞を読んだりしていました。(…)20世紀にはそれでもやっていけたのです。その同じ商店街が、今シャッター街といわれるようになっている。時代は変わったのです」

  • 勝ち組、負け組という言葉が流行したが、もう古い。生きるか死ぬかの時代になっている

『大創産業という会社は必ずつぶれるんだ』ということ。必ずつぶれる会社をいつまで保たすか、その期日を先延ばしにするには社員が努力し頑張るしかない。たくさんの先輩たちが働くという強い遺伝子を発揮してダイソーをつくってくれたけど、このままでは5年先にはつぶれてしまう。それをなんとか5年5ヵ月保たせたい。そのあともう5日延ばしたい。その気持ちを鮮明に持って、みんなで頑張るしか道はない」(入社式で新入社員に話す内容)

「笑い話になりますが、金を差し出したとき、私の肘は曲がっていました。返さなくてはという思いの半面、返したくないという思いも5割あって、肘がまっすぐに伸びなかったのです」( 夜逃げ同然で出てきた東京で、状況した兄に借金を返す場面の話)

  • ダイソーには社長室も応接室もない。秘書らしいものもいないし、役員も3人だけ。社員はパートを入れると2万2千人ぐらいいるが、会社のあり方は創業時とあまり変わらない。20世紀はどんどん大きくなることが正しかった。しかし21世紀は大きかった企業が縮んでいく時代だ

「それまでの私は、つぶれる会社に勤めてくれる社員を怒れませんでした。朝の5時6時から夜の11時12時まで働いてくれる社員を怒れるはずがない、そう思っていたのですが、伊藤会長にお会いした翌日から、社員を怒ることができました。それも必死で怒れるようになりました。そのことが今の会社ができた大きな理由だと思っています」(セブン&アイの伊藤名誉会長から薫陶を受けて辿り着いた考え)

馬鹿野郎、俺だってつぶれる夢を月に1回は見るぞ。ヨーカ堂やセブン-イレブン、大した会社じゃないんだ。いいか、中台戦争が起きたり、中近東戦争が起きたり、ヨーカ堂が不祥事を起こして新聞で叩かれたら、1人客単価100円は減るんだ。それだけで赤字になってしまう。そんないい会社じゃないんだよ、馬鹿野郎」(伊藤会長)

俺の生きている間だけ生きられればいいよ」(ジャスコ 岡田名誉会長)

私は経営者に向いてないんだ」(ユニー 家田元会長)

他にも、矢野社長がダイソーを創業するまでの流転の日々についての記述が結構ある。家族を連れ広島から東京に逃れてきたとき、箱根駅伝のランナーを茅ヶ崎あたりで見かけたときの情景や、「10年ほど前までは、茅ヶ崎の景色が映ると泣いていました」という一節などはしみる。

万人受けするものではないと思う。理解できない人も多いだろう。
が、ぼくは矢野社長の考え方をときどき思い起こしたい。

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読書メモ「ビジネスをつくる仕事」 Key: 川の真ん中・船の端, 失敗の隣に成功, 偶然を取り込む, かつて強く今は薄いネットワーク…

Posted on 2016年6月17日. Filed under: 読書 | タグ: , |

ビジネスをつくる仕事」(小林 敬幸)、面白かったので読後のメモです(思い出し用)。

川の真ん中・船の端を狙う

「どの業界、分野においても、独自の特殊な視点や商習慣があるものだ。長年その業界にいるとそれが当たり前になってしまうが、世の中全体から見ると、なんとも特殊で非合理的なものがある。そういうものを新しいビジネスの機会と捉える。その業界の中では、端っこだけれども、社会全体で見ると実は、むしろ真ん中にあるビジネスをやってみる。自分の周囲からは「変」に見られるが、外から見ると「普通」のものをする。たとえると、船の端っこだけれども、実は、その船が浮かぶ川の真ん中のような場所、つまり「川の真ん中・船の端」を狙うのである」

ビジネスをやるときは船(業界)の端だが川(世の中)の真ん中を狙え。

成功事例より失敗事例によく学べ

「敗者に寄り添った敗因の分析をしたほうが実りが多い。そういう状況なら、もしかしたら自分も同じ判断をしてしまったかもしれない、と思いながら聞いたほうが、より多くの教訓を得られるものである。  そういう意味で、社内や同業界の人など、自分と同じような立場の人がした失敗というのは、自分の身に置き換えてよく聞くと、新しいビジネスにつながることが多い。概して、誰かが失敗したビジネスのそのすぐ隣の近い分野には、いいビジネスを立ち上げるチャンスが転がっているものだ。その人が目を付けたのだから、もともと成功のチャンスはあったのだろうが、少し何かがずれていただけなのだろう。その敗因をよく分析して、一部修正して近いところで挑戦すれば、何もないところから挑戦するよりもずいぶんと成功確率が上がる。失敗の隣に成功がある」

成功事例より失敗事例の方が教材として重要。成功の隣に同じような成功はないが、失敗の隣には成功が潜んでいることが多いから。
そして後段では、「時代の変化への対応が上手な組織は、自らの成功体験、失敗体験を、常にいまの時代の状況から見直し、修正し、上手に活かしている」とも言っている。

斜めに補助線を引く

「現代において新規ビジネスをつくるにはどうすればいいのだろうか。「昭和的な方法」と対照となるような成熟社会に有効な手法の一つをここで提示しておこう。(…)現代では、ある分野の会社がすべて成長することはまれで、各分野の勝ち組は、上位一~二社だけである。そのそれぞれの分野の勝ち組の勝因をまずよく観察する。そのうえで、分野は違えども、成功している企業の共通点は何であるかと自分なりに仮説を置いて考えてみる。いわば斜めに補助線を引くような感覚である。そうしていくつかの補助線を持っておく。そうしてから、別のまだ世にない新しい分野、あるいは、誰も成功者がいない不毛の分野に、その成功の共通点を当てはめられないかと考える。あるいは、異なる産業分野の境界線上で、その補助線の延長がぶつかるあたりに着眼点を見出すのである。そして、有望と思われるところを、ピンポイントでまっすぐ狙っていく。斜めに見てまっすぐやるのである」

「斜めに補助線を引く」とは、ある業界での上位企業の勝因を読み解いて抽象化し、別の業界などへの適用可能性を考えるといったことだろう。

筆者が立ち上げに関わったライフネット生命の場合、「サービスのメディア化」という成熟社会での成功パターンの認識、「通販ビジネス(全般ではなく、継続販売など)の成功要因」について知見(補助線)があった。そこへ知人から電話で「ネットの生命保険」の話が来たので、あらかじめ持っていた二つの補助線に適合する事業だと直観することができたという。

ネットワークについての考察

ビジネスを生み出すネットワークについての考察、二つ。

「経営学では、強い結びつきをいうソーシャルキャピタルと、ウィークタイ(弱い結びつき)の創造に対する寄与の議論があるが、実体感では、この二つが組み合わさったネットワーク、すなわち、昔の強い結びつきが、その後薄く広がったようなネットワークが最も創造的に感じられる」

ソーシャルネットワーク論でよく言われる単なる“弱い紐帯”ではなく、“学生時代の親友関係などが、年月が経つにつれて薄まりながらも続いているような交友関係”が、ビジネスの創造において役割を果たすということか。なんとなくわかる。

「最近の経営学で注目されている「ストラクチュアル・ホール」という概念も、似た発想に基づいている。蜘蛛の巣のように多くの人がつながっているネットワークの構造を分析すると、ネットワークのつながり方に密な部分と疎の部分がある。ネットワーク内部に密につながっているグループが複数あり、そのグループとグループの間の連絡ルートが少なく、疎になっているところもできる。その疎の部分がストラクチュアル・ホールである。そしてこのなかなかつながっていない二つの価値体系をつなぐ人こそがビジネスに成功するという発想だ。多くのマネージャーの人脈を分析し、あまり接点のない二つのグループにつながっているマネージャーほど、実績をあげているというような研究もある」

人のつながり方にはバラつきがあり、疎らな部分を行き来して架橋できる人が創造においては強いということ。

偶然を排除せず取りこめ

「私自身の方法としては、あるビジネスを無理やり立ち上げるというよりも、基本的には、そのビジネスが持つ固有の生命力を信じて、その生命力をよりよく発揮できるようにしていくというほうが好きである。従って、そのビジネスの生命力をよく見て、育ち方を読み、正念場のときにだけぐいっと力を入れ、あとは、そのビジネスが本来持っている生命力をうまく発揮できるようにサポートするほうがうまくいく」

低成長であり予見可能性が低い成熟社会では、偶然をうまく利用する「創発的戦略」が効く。1960年代にホンダがオートバイ販売でアメリカ進出した際は、「合理的になりすぎないように注意し、東京ですべてを解決できるとは考えず、現地現場で学」ぶようにして成功した。

最終的にどうあがるか決め打ちせず、複数の成功可能性を維持する「メンタンピン戦略」という表現も出てくる。

成熟社会でのビジネスの生き残り方

「今後の成熟化する社会では、企業とビジネスマンは、社会からのメッセージに耳を澄まして聞き取る能力が必要となっている。さらに、その社会の声とニーズに反応してまた次に質のよいメッセージを発するという、社会との対話をする能力と対話の質が問われるであろう。社会との対話能力は、会社の存続のために絶対必要であり、かつそれは、その会社の本源的価値にもつながっている」

まず聞き取ることに注力し、そこを起点として質のよい対話をすることが必要。

「企業、政治組織、NPOなど様々の組織がソーシャルと名の付くものに殺到している。しかし、多くは、従来のマスメディアと投書欄とアンケート調査を組み合わせたものの域を出ない。一言で言うと、最初からマスへのアピールを意識しすぎているので、よくできたソーシャルにならないのだ。最初は、じっくりと少数のコミュニティと双方向の深い交流をもたなければならない」

しかし対話においては最初から大多数を相手にしようと構えるな。少数のコミュニティーとの「深い交流」から始めるべき。

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読書メモ「明るい会社3M」Key:ブートレッギング, 15%ルール, 社内神話, プロダクト・アウト, 触媒としての「場」

Posted on 2015年6月3日. Filed under: 読書, 企業経営 | タグ: , , , |

「明るい会社3M」(日経ビジネス編)、読了。
出版は1998年。17年前(2015年現在)の本であり、古くなっている部分もありそうだが、ずっと読みたかったが放置していた本であり、あくまで自分の振り返り用にメモしておく。

  • そんな商品は売れないよ。聖歌隊以外のいったいだれが買うんだい」(アート・フライが試作したポストイット原型である「落ちないしおり」に対して販売部門の社員が浴びせた言葉)
  • 3Mの開発部門の不文律2つ。上司に秘密で開発を進めてよい「ブートレッギング(密造酒づくり)」と勤務時間の一部を自由研究につぎこんでよい「15%ルール」(時間はだいたいの割合でいいらしい)
  • 1日平均1.4個の新製品。「おいしい技術をしゃぶりつくす」仕組みが卓越した開発能力を支えている。基礎技術はテクノロジー・プラットフォームと呼ばれている
  • マーケティング(マーケット・イン)よりプロダクト・アウトにこだわる。「顧客が求めるものは、常に今ある商品の延長線上でしかないという限界がある。それを超える画期的な商品は研究者が考えた方が生まれやすい」。また、マーケット・イン型の開発に比べ、他社との厳しい競争を回避しやすいというメリットがある
  • プロダクト・アウトを是正する制度は「ペーシング・プラス」。有望なプロジェクトは全社をあげて応援し、開発期間を短縮させる(変化の速いIT分野などで適用)
  • 「失敗から得る経験は大きい。それに、失敗が死を意味するわけではないし」。そういう雰囲気をつくることが重要。誤った答えを出すたびに厳しく罰せられたら、誰もリスクを冒さなくなってしまう
  • 3Mでは、社内に企業文化を深く植え付けるために「社内神話」を積極的に利用している
  • 我々はカリスマの力を個々の経営者など『ヒト』に求めるのではなく、『企業文化』に求めている」(デジモニ会長)
  • 3Mは、アメリカ企業としては珍しく中途採用をほとんどせず、ほとんどの社員が終身雇用に近い形で働いている。企業文化を深く理解した社員は、商品が多く、進出市場も沢山ある企業内で組織の壁を超えたネットワークをつくり、3M流のイノベーションを支えている。つまり強みの原動力になっている
  • 社員は常に動き続けなければいけない。そうすれば、どこかでイノベーションが自然と起こってくる。他国の現地法人との交流は、1+1=3になるような相乗効果がある」
  • 「96年5月、米3Mからマイクロ複製技術を発明したロジャー・アップルドーン氏が講演のために来日した時のことだ。畑さんは講演が終わったところでアップルドーン氏をつかまえて、自分がマイクロ複製技術を応用して開発した梱包用の緩衝テープを見せた。当時、この緩衝テープは完成したものの、どのように商品化したらいいかわからない状態だった。話を聞き終わるや否や、アップルドーン氏は助手にライトファイバーを持ってくるように命令した。そして、ケーブルに緩衝テープを巻き付けた。すると、一方向に強い光が発生した。アップルドーン氏は一通り話が終わると、『きみはライトファイバーのプロジェクトに参加すべきだ』と助言した。その後、畑さんは社内ベンチャーチームに参加して、緩衝テープ巻き付けによって光の強さを増す技術を完成させた」
  • 米国では研究者だけでチームを組んでいるが、日本法人は販売部門も巻き込むスタイルにした。また未完成の段階から顧客訪問を精力的に行い、要望を聞いては試作品をつくることで、成功ケースを生んだ
  • アイデアは世界中の社員が優れたものを出してくるので、管理職の役割は仲介役として応援したり、アイデアがぶつかり合う場所をつくることだ
  • 正しいことを毎日、毎年、一生懸命続けることが大事。3M発祥の地であるミネソタの麦づくり、日本の稲作、エクアドルのエビの養殖に共通する秘訣は「勤勉」である
  • 5人で創業した3Mは早々に経営が悪化した。危機脱出のため「当初の事業目的だった『コランダムの採掘』にはこだわらず、なんでもいいから生き残る──。それが企業の目的となった。そんな中で、経営陣は、コランダムそれ自体を販売するだけでなく、コランダムを材料として作られるサンドペーパーを製造・販売するメーカーに転身することを考えた
  • 競争が激しい市場に、特徴の薄い商品を出すようなことはしない」(中興の祖といわれる第4代社長ウィリアム・マックナイト)
  • 「貴社がサンドペーパー製造に使用している研磨粒子の見本を送ってください」という奇妙な手紙をきっかけに耐水サンドペーパーを開発したことが、他社と違う商品を世に出す企業としてのきっかけになった
  • マスキングテープを改良するための開発で、マックナイト社長は開発者であるリチャード・ドゥルーに手を引くよう命じたが、ドゥルーは密かにやり続けた。ある日、その現場を通りかかったマックナイトは無言で去っていった。その結果、大ヒット商品セロハンテープが誕生し、企業文化である「ブートレッギング」の原点になった
  • 企業は『最善を尽くす』という動機を持った人たちに依存しています。ですから、社員を尊重しなければ成功はおぼつきません。私がここで言っている『成功』というのは、数年間だけの短期的な成功ではなく、長年にわたって続く成功という意味です」
  • 「私は会長になって5年になりますが、引退まであと5年あります。会長在任期間の10年間で、これからお話しする現在開発中の技術が利益をもたらすことはないでしょう」
  • 過去4年間に市場に出した新製品で最低30%の売上を稼ぐ。過去1年間に市場に出した新製品で、最低10%の売上を稼ぐ
  • 知識変換プロセスで重要な役割を果たすのが、触媒としての『場』」(野中郁次郎)。オフィス、仮想空間、人間関係、人間同士が共有しているメンタルスペース(共通の思い、イメージ)
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「情熱商人 ドン・キホーテ創業者の革命的小売経営論(安田隆夫)」読書メモ(Key: 見落とし感, 主語転換, 深掘り展開, 社員を個人商店主に)

Posted on 2014年3月16日. Filed under: 未分類 | タグ: , , |

「情熱商人 ドン・キホーテ創業者の革命的小売経営論」(安田隆夫, 月泉博)、読了。

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんの本だ。

ドンキという店について不思議に思っていたのは“深夜についつい店内を徘徊したくなってしまうこと。そしてつい要らないものを買ってしまうこと”だった。
ゴチャゴチャした商品陳列や饒舌なPOPが特徴的な同店だが、この本を読んでインスピレーションの源泉や、安田氏が強い意志の下で来店客の観察とさまざまな試みを反復しながら今のスタイルに到達したのだとわかった。また「MEGAドン・キホーテ」という店舗形態についてもドンキの大型版だろう…ぐらいに考えていたのだが、もっと狙いは深遠らしく、いろいろ面白い本だった。

以下、メモ&引用。

  • 「泥棒市場(ドン・キホーテ創業者である安田隆夫氏が最初に立ち上げた小売りの店)には売ろうという気迫があふれていた」。泥棒市場での客の潜在的な嗜好を必死で探り、絞り出した策が「ナイトマーケットの発見と深夜営業」「圧縮陳列」「手書きPOPの洪水」という、今のドン・キホーテにつながる3大手法だった
  • 深夜営業について。静かな住宅街に煌々と灯る泥棒市場の看板照明の下で、安田氏は一人ゴソゴソと検品や品出し作業をしていた。すると道行く人から「何をしてるんですか?」「店はまだやっているんですか?」という声がかかる。1円でも売上が欲しかったので「やってますよ」と。深夜の来店客は、多くがアルコールが入っているせいか、ゴミの山のような商品でも逆に面白がってよく買っていった
  • 人の心理は非合理で不可解なことが多い。特に買い物は自由度の高い行動だからその傾向が強まる。さらに夜間ともなれば少し背徳的で猥雑な要素が入り込む。だからそれに応えるサプライズやエンターテイメントが必要だ
  • ドン・キホーテのコンセプトは「CV+D+A」。CV(コンビニエンス)、D(ディスカウント)、そしてA(アミューズメント)である
  • 「今繁盛している店には、(たとえそれが生活利便ニーズ対応の業態であっても)いずれも売り場にエンターテイメントな〝お祭り〟の要素が色濃い。たとえば、ホームセンターの「ハンズマン」(本社・宮崎県都城市)、食品スーパーの「ハローデイ」(同・福岡県北九州市)、そしてわがドン・キホーテである」
  • 来店客に手の内を全部見せるな。常に“見落とし感”が残るように演出し、後ろ髪を引かれながら店を出る気持ちを与え、近いうちにもう一度来たいと思わせなければならない。そのさじ加減が難しいのだ
  • 客との関係では主語を転換して考えよ。そして競合店との立場においても、相手を主語として「これをされたらかなわない」ということを徹底的に突き詰める。主語を転換すれば、アイディア(戦略)の精度やその後の具体的施策(戦術)の精度は飛躍的に高まる
  • ドンキのMD(マーチャンダイジング)は一見経済合理性のない品揃えを平気で行う。たとえばつけまつげやカラーコンタクトなど需要が限られる商品をバリエーション豊富に深掘り展開。アパレル部門では売上の3割をコスプレ衣料が占める。通常のDSは流行に左右されない型落ちモノなどを安売りするが、ドンキは流行品に対する過敏さ・執着心が異常に強い。MD的に先鋭的になればなるほどその輝きを増すという独自構造がある
  • 日本は超成熟消費社会であり欧米型ハード(プア)DS業態の成立余地は大きくなかったが、2008年秋のリーマンショック以降は“真正プアDS市場”がかなり拡大。ドンキでもMEGAドン・キホーテ(長崎屋を買収した店舗が主体)で食品売り場を主体にこのプアDS市場を取り込む。しかしこの業態でも、プアDSの対極にあるドンキ流“コト、ココロ志向”のディスカウント要素の注入が差異化と競合優位の決め手になるだろう
  • 株式店頭公開(1996年)の翌年に出店した新宿店(第8号店)は大ブレイクし、事業全体にも大きな意味をもたらした。この店の成功は郊外ロードサイドだけでなく都心をドンキの得意立地に変えた。また都心店舗での先鋭的イメージ発信で、郊外店の売上も共振・成長し、都心と郊外の二本立て出店がその後基本戦略に。また新宿店は「立地創造」も。新宿の職安通り一帯は夜の女性一人歩きがはばかられるような裏通り的街区だった。が、ドンキ新宿店が核となって周りに飲食店・物販店が集積され、夜も賑わう商業街区へと徐々に変貌していった
  • 会社が大きくなればなるほど、あえて組織を細分化し“小さな燃える集団”にリメイクし続ける努力を惜しまない
  • 小売業にとって営業の現場は最も神聖で重要な場であり、そこで働く人たちは大いに敬意を表されるべき。しかし現実に日本の小売業従業員はお客様や世間からのリスペクトされにくい。だからこそ経営者が真摯に現場をリスペクトし、盛り立てる必要がある。ドン・キホーテは(…)流通業界きっての属人的企業である。私はそれを、大いに誇るべきことだと思っている
  • 現場に大きな権限を与えるドンキだが、各店がバラバラにならない理由のひとつが「中小ラックジョバー型問屋」のフル活用。現在約1000社の取引先のうち2割を占める。ラックジョバーは、ヘアケア、珍味など専門性の高い商品・すき間商材などを主に扱い、売り場づくりなどにも独自のノウハウを提供する中小専門問屋。「圧縮陳列」などの売り場づくりも彼らとの協業があって維持できている
  • 商品部対現場。現場は商品部からの「送り込み」に不満を漏らす。しかし送り込みがなければ今のドンキの店舗は回らない。このトレードオフを解消する方策は「ない」。「止揚(しよう)」とまではいかないが、現場と商品部の前向きなせめぎ合いの下で独自の品揃えを成立させるのが今のドンキ最大のノウハウ。論理的に突き詰めれば間違っているが、実態は正解という世界。その構造はあえてファジーなままでいい
  • これからの時代にフィットする流通企業は「常に変化対応できる柔軟性を第一義とし、あまり売上的なものに拘泥せず、あらゆる意味で質的精度を高めながら持続が可能な有機的組織体」だ。ドンキはすでに基本戦略の軸足を規模拡大主義から業態創造主義へと移した。 仮に売上が1兆円になったとしても、マインドはあくまでも「中小企業」だ
  • 事業では沢山の小さな失敗と、数少ない大きな成功があり、大勝ちによるプラスが小さな負けでの累積マイナスを上回ればいい。ところが人は「負け」には敏感だが「勝ち」には意外なくらい鈍感だ。商売で50万円損をすれば悔しがり、必死でその負けを取り戻そうとするだろう。 しかし100万円儲けるチャンスで50万円売り上がったことを「50万円も儲け損なった」と悔しがる人は極めて少ない。これはダメで、果実を全て収獲できなかったことを地団駄踏んで悔しがれる人こそ本当の勝負師なのだ

最後に、ドン・キホーテの東日本大震災に対する支援事業を紹介した一節を引用しておく。
(さらに…)

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メモ:「ストーリーとしての競争戦略」(Key:非合理なキラーパス、ポジショニング(SP)と組織特殊性(OC)、ダラダラ会議、ストーリーの面白さが組織を駆動)

Posted on 2014年3月11日. Filed under: 未分類 | タグ: , |

ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件」(楠木 建)、読了。

博識で強い表現欲をもった経営学者の、すっ…ごく長い雑談という印象。

紙の本だと518ページあるらしい。Kindle版を移動時間などにコツコツ読み進めたが、%表示がなかなか進まないので驚いた。

ストーリーテリングの本を物色しているときに目に留まり、以前話題になったことを覚えていたので興味を持った。最初“ストーリーテリング×企業の戦略”の本かと思い、Amazonのレビューをいくつか読んでみるとそういう内容ではないとわかった。が、興味が湧いたので読んでみた。

主旨をかいつまんで説明するとこうだ。

優れた企業戦略というのはストーリーである(べき)。戦略とは文脈に依存する特殊解で、普遍的なものではない。静止画のようないわゆるベストプラクティスでもない。
ストーリーであるのは起承転結であるからで、「転」にあたる部分はその部分だけを取り出せば不合理だから、他者が見れば不可解であり、そこが模倣への防壁となっている。

この本では戦略の優位性の取り方を説明する部分で

  • SP(Strategic Positioning:よくいわれるポジショニング)
  • OC(Organizational Capabilitiy)

という二つの概念が出てくる。

SPとOCの対比でいえば、経営書として熱狂的な支持を受けた(ぼく自身もハマった)「ビジョナリー・カンパニー2」の主張は、一貫してOCの立場なのだろう(…と思うが後で読み返してみたい)。読んだ人は、あの本の“カリスマ経営者なんか要らん”“まず誰をバスに乗せるのかを決めろ”“ひたすら弾み車の回転を高めよ”といった内容を思い出すとわかると思う。

以下、引用(読み返し用)。

「さまざまな経営資源の中で、「組織特殊性」(firm-specificity)の条件を満たすものを、一般の経営資源と区別してOCといいます。組織特殊性とは、平たくいえば「他者が簡単にはまねできず(まねしようと思っても大きなコストがかかる)、市場でも容易には買えない」ということです。SPがトレードオフを強調するのに対して、OCのカギは「模倣の難しさ」にあります

「他社がそう簡単にはまねできない経営資源とは何でしょうか。組織に定着している「ルーティン」だというのが結論です。ルーティンとは、あっさりいえば「物事のやり方」(ways of doing things)です。さまざまな日常業務の背景にある、その会社に固有の「やり方」がOCの正体であることが多いのです

「競争優位はSPとOCの組合せなのですが、業界が成熟するにつれてOCの占める部分が大きくなっていくのが一般的です」

「数多くのM&Aで成長している日本電産は、ゴーンさんが日産でやったことを永守重信総料理長が何回も繰り返しているようなものです。日本電産はその時点では必ずしも業績が良くない企業を買収します(なぜならば、もともとピカピカの企業であれば高くつく)。ただし、それは往々にして図の右下、つまりかなり良い厨房にあるのに、レシピがはっきりしないため低迷している企業です。左下の企業ではありません。「技術も人材もあるが、経営の問題で業績不振に陥っている企業は立て直しやすい」というのが永守さんの考え方です。そうした被買収企業に永守料理長が独自のはっきりしたレシピを導入していくことによって、急速に業績を好転させ、グループ全体の増収増益につなげています。SPとOCのうまい組合せを意識した戦略です

「トヨタがスピーディーに製品を開発できる一つの理由は、その初期段階から、部品間のかみ合わせの良さやつくりやすさを織り込みながら個々の部品が開発・設計されていることにあります。つまりできるだけ前工程で調整の質と量を増やすことが重要で、これを「フロントローディング」(前倒し)といいます。フロントローディングを進めるためには三次元CADのようなITツールが有効な面があります」

「ニッチの戦略は多くの会社でしばしば議論に上ります。しかし、多くの場合は「ニッチに特化する」といった次の瞬間に、「年間二〇%成長をめざす」というように、筋が通らないというか、論理がねじれた話になりがちです。本当にニッチに焦点を定めて無競争による利益を追求するのであれば、成長はめざしてはいけないことだからです。(…)ストーリーの最後にくるシュートは、あくまでも「なぜ儲かるのか」という論理にこだわるものでなくてはなりません。最後のところでの利益創出の論理が甘くなると、ストーリー全体が台無しになってしまいます

「アルバックは真空技術を使って、液晶や太陽電池などの先端分野の製造装置を開発し製造する企業です。生産性向上のためには会議の数を減らし、時間を短くしたほうがよいというのが常識ですが、アルバックは数多くの会議を、しかも時間をかけて「ダラダラやる」ことにこだわっています。独自の技術開発に事業の軸足を置いてきただけに、かつてのアルバックは技術者が自由闊達に最先端の技術を追求する会社で、技術者一人ひとりがカスタマイズした製品を取引先の要望に応じてつくり込むというやり方がとられていました。しかし、薄型テレビや太陽電池など巨額投資が必要なハイテク業界では、汎用的な製品に戦略的に投資をして、同じ装置を大量に売ることが大切になります。 その一方で、用途市場の変化が激しく、基盤となる技術にしても不確実性が高いので、どの領域に集中するかはトップダウンでは決められません。そこでアルバックは技術者の行き過ぎた個人主義を抑制し、現場の技術者全員を巻き込んだ徹底した議論を通じて合意形成をするために、「ダラダラ会議」を頻繁に開くというスタイルを意識的にとっています

「全員に愛される必要はない。この覚悟がコンセプトを考えるうえでの大原則です。誰に嫌われるべきかをはっきりさせると、その時点で確実に一部の顧客を失うことになります。しかし、全員に愛されなくてもかまわないということ、これが実はビジネスの特権なのです

「サウスウエストの「空飛ぶバス」にしてもスターバックスの「第三の場所」にしても、肯定的な形容詞はどこにも見当たりません。だからこそ、面白いストーリーの発火点となったのです。コンセプトはできるだけ価値中立的な言葉で表現するべきです

「中古本を売ったり買ったりする仕事は、ブックオフのずっと以前から存在していました。業界は淡々と同じことを何十年もやり続けていました。ブックオフの創業前後に大きな環境変化があり、何か新しい外在的な事業機会が生まれたわけではありません。もしブックオフの戦略ストーリーが、それまでの人々、古書店業界の知識を持った人々にとって「良いこと」ばかりで綴られていたとしたら、ブックオフが創業するずっと以前の一九六〇年代か七〇年代にブックオフと同じような企業が登場していても全く不思議はありません。ブックオフの戦略ストーリーが「新しく」「独自」だったのは、それが従来から共有され信じられてきた基準からして、明らかに「一見して非合理」なキラーパスを含んでいたからなのです」

「戦略ストーリーが意図するのは、一目瞭然の派手な差別化ではなく、「似て非なるもの」という差別化

「戦略に関しては、絶対の保証はありえません。その戦略ストーリーがうまくいくかどうか、本当のところはやってみなければわかりません。しかし、論理的な確信を持つことはできます。それは「これだけ情熱を持ってやっているのだから、必ず道は開ける」という情緒的な思い込みではありません。「どうせやってみなければわからないから、一か八かの勝負だ」という冒険でもありません。ストーリーが太く強く長い論理でつながっている、だから長期利益に向かって動いていくはずだ、という論理に基づく確信です。 自らのストーリーに対する論理的な確信を得るためには、構成要素のつながりの背後にある「なぜ」を突き詰めていくしかありません。何をやるか、いつやるか、どのようにやるか、戦略はさまざまな問いに答えなければなりませんが、何よりも大切な問いは「なぜ」です

ストーリーの面白さは、組織における戦略の実行と深くかかわっています。(…)全員がストーリーを共有しているということが戦略の駆動力になっています。言葉はちょっと悪いのですが、一つのストーリーをともに担っているという「共犯意識」が大切なのです

「ただでさえ忙しい中で、リーダーはどうしたらストーリーを伝えるための努力を続けられるでしょうか。自分で面白いと思えるストーリーをつくることに尽きるというのが私の意見です」

納得できる箇所も多数あったがツッコミを入れたいところもそこそこあり、最終的に著者の見解に全面賛成はできなかった。

が、経営書を読む時間を持つメリットは、著者との「脳内対話」に大きな意義があると思う。言葉を交わす中で、主張が合わなくても重要な示唆を与えてくれる人がいるように、この本はいくつかの強い刺激を与えてくれた。頭の切れる人と長い床屋談義をしたような感じがする。

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