『東京ゴッドファーザーズ』(新国立劇場 小劇場):コロナ禍だからこそ意味がある上演

Posted on 2021年5月31日. Filed under: 演劇 | タグ: |

『東京ゴッドファーザーズ』(新国立劇場 小劇場)を観てきた。

この芝居は、緊急事態宣言を受けて開幕の5月1日~11日までは中止となっていた。

今敏の『東京ゴッドファーザーズ』は何度も観ている。いま東京で芝居を観に行くことに否定的な考えの人もいるだろうな。それでも感染対策をした上で観に行きたい。この作品だから。そう考えて行ってきた。

よいシーンがいくつもあった。あとで自分で反芻するために記して書いておきたい。

まずオープニング。
何もない舞台に神父が登場し、説教をはじめる。“なぜイエスが馬小屋のかいばおけで生まれたのか?”といった話を、コロナ禍で厳しい世情も交えながら。
彼が立つ舞台が徐々にせり上がっていき、その下からは大きな袋やスーツケース、台車などを携えたホームレスの群れが現れる。やがて彼らは神父を取り囲み、説教を聴く態勢になっていく。

神父の説教は、舞台上のホームレスだけでなく観客たちもはげます二重の意味をもっている。うまい。

映画を観た者なら、これは冒頭のキリスト教系組織の炊き出しのシーンだろうとわかる。話をどんな風に舞台化するのだろう…という不安はあったし、着席して目に入ったシンプルな舞台に不安は高まっていたので、“あのシーンをこんな風に料理するのか!”とゾクッとした。大丈夫だ、と思えた。

松岡昌宏が演じるハナはアニメ版より艶やかで、とくに「ろくでなし」を歌うシーンはとても映えていた。もっと長くパフォーマンスを観たいと感じたほどだ。

じわじわ効いたな…と思えたのは、ときどき差しはさまれる通勤者の群れ、ホームレスの群れなどモブたちが動く場面だった。

エンディング直前。さまざまな人の声が輻輳しコロナ禍にあえぐ世相が語られる。その中で、実際に渋谷で起こったホームレス女性の撲殺事件のニュースがはっきりと読み上げられた。驚いたし、どぎついなとも感じた。しかし芝居を観ている初台から事件が起こった場所まで、たった数kmしか離れていないのだと気づく。意識が物語と現実を行ったりきたりした。

そして終局。ここまで観てきて原作をかなり丁寧に再現しているのはわかったが、それでも、いかにもアニメ的なあのスペクタクルをどう見せるんだろう? と不安があった。

幸子が自殺しようとし清子が落ち、ハナが救う、そこに奇跡が起こる。ベストではないかもしれないが、胸に迫る演出だった。

全体に原作に忠実で、ときには2シーン、3シーンを並走させながら再現していく生真面目さには驚いた。それだけに少しせわしさも感じた。また、描き込み(一画面あたりの情報量)が多いアニメ版に比べれば、重要な細部(写真、テレビ、新聞広告など)はこぼれざるをえなかった。そのことで、映画未見の人にはわかりづらい面もあったはずだ。

しかし、コロナ禍で息が詰まるいまこそ、弱い者たちがつむぐ生命賛歌『東京ゴッドファーザーズ』を舞台として観ることができてよかったと思う。敢行してくれた勇気をたたえたい。

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