『限界は何が決めるのか?』メモ:限界は脳疲労が決める, セルフトーク効果, 信じることで自己成就

Posted on 2020年3月9日. Filed under: ランニング, 読書 |

限界は何が決めるのか? 持久系アスリートのための耐久力(エンデュアランス)の科学』、読了。

「本書は人間の限界を押し広げようと突き進んだアスリートの物語を織り交ぜながら、過去から現在までの科学的知見を駆使し、人間の耐久力を決めるものや、痛み、筋肉、酸素、暑さと熱、のどの渇き、エネルギーといった肉体に影響する要素についても解き明かす。」とある。

不満だった点2つ。

  • アメリカの大衆向け科学本によくある、面白いエピソードと科学的知見が繰り返される構成。散漫に感じられた。
  • 興味深い知見もあるが、対象者が少ない実験が多くメタアナリシスを経たものはほとんどない(と思われる)。つまり、本気でトレーニングの根拠にするわけにはいかないもの。

それでも、日々走ったり泳いだり自転車漕いだり、持久系スポーツに打ち込む人にとってはいい刺激になるはずだ。ぼくは少なくともそうだった。

以下、自分用要約。

  • 人間の耐久力は脳が司っているのでは? と考えたノークスは、1998年の論文のなかで「セントラル・ガバナー」という言葉を作り出した。限界は肉体ではなく脳がつくり出している根拠は「ラストスパート」(ノークス)。56マイルを走ったランナーが、最後に全力疾走できるのはなぜか?

「これまでの生理学では、走っているうちに徐々に疲労が増し、同時に筋腺維の機能が低下して、エネルギーの蓄えが空になるとされる。ところがランナーは終わりが見えると速度を上げる。どう考えても、筋肉はその前の数キロでもっと速く動くことができたはずだ。では、なぜそうしなかったのか?(…)長時間の努力が必要な間は人を自制させ、危機が過ぎ去り、終わりが近づいた時にようやく最後の蓄えを放出させるのは脳にちがいない」

  • 人間の脳は、11~12歳頃には先々の必要性を見越して予備のエネルギーを残すようになる。「かつて人類が食料の調達と体力の温存をぎりぎりのバランスで保っていた名残だ」(ミクルライト)。
  • 速いランナーほどラストスパートをかける率は低い。より熱心なランナーたちは、自分のセントラル・ガバナーの設定を徐々に再調節し、余力を残さないようにしたと解釈できる。
  • マルコーラは、運動生理学と動機づけの心理学、認知神経科学を統合した新たな「心理生物学的耐久力モデル」を考案。ペース配分や途中棄権の決定は、筋肉で起こるのではなく常に自発的なものであり、疲労は脳のなかにあるものだとした。
  • 精神的に疲労したコンピューターの課題のあと、被験者は最初から「主観的運動強度」を高く感じる。そこで、肉体的トレーニングの前に精神的に疲労するコンピューターの課題を行わせる「脳の持久力トレーニング」が考案された。

35人の被験者が週に3日、エクササイズバイクを1時間こぐトレーニングを行った。被験者の半分は自転車をこぎながら、(…)脳トレーニングをした。12週間後、体力トレーニングだけの被験者はTTEテスト(トレッドミルを一定速度で走るテスト)の結果が42%向上した。一方、体力とメンタルのトレーニングを行った被験者は、126%もの伸びを示した。

おぉ、難しいPodCastを聴きながらレースペースのランをやってみるとか?

  • 表情フィードバック仮説」。ペンを歯でくわえて(笑う時と同じ筋肉が動く)漫画を読むと、より面白く感じられる。感情が体の反応を誘発するように、体の反応が感情を引き出し増幅する。
  • 頭の中の言葉にも感情への影響力がある。セルフトーク(「いけるぞ」「突き進め」など)を活用するグループは、対照群より18%長く自転車をこぎ続け、主観的運動強度の上昇もゆるやかだった。
  • 体力の向上と痛みへの耐性強化は、直接関係はない。後者を高めるには実際にトレーニングの中で痛みを感じることが重要

「痛みは、視覚や触覚のように感覚であり、怒りや悲しみのように情動であり、しかも空腹のように行動を促す“動因状態”でもある。特定の状況下でこうした要素がどう混じり合うかによって、痛みの役割が決まる。苦痛はアスリートを失速させ、停止させることもあれば、彼らをさらなる高みに駆り立てることもある。」

  • 3分間の運動で起こるのは筋疲労だけ。10分以上など時間が長くなるにつれ、中枢性(ストレスや精神作業による)疲労の重要度が増していく。以前の研究では筋肉疲労が過大評価されていたことがわかる。
  • 乳酸は筋肉が焼けるような痛みの原因だ、という考え方はUCLAのジョージ・ブルックスの研究などが否定。トップアスリートは乳酸をエネルギーとして効率的に再利用する。ATPの生成で発生するラクテートとプロトンで痛みを感じるのは、脳が反応しているため(アマン)。これをフェンタニル(麻薬性鎮痛薬)などで無効化すると、筋肉をさらに追い込めるようになるが、やがてリン酸塩などの代謝物の濃度が上昇し、筋腺維の収縮能力をじかに阻害する。
  • 呼吸について。肉体が酸素を欲する時と実際に酸素が必要な時の違いについての研究が進み、呼吸の衝動は、ある程度までなら無視できる警告信号であることがわかってきた。
  • 一般人では海抜ゼロ地点と高地でVO2Maxの違いはなかった。しかしアスリートは心臓のポンプ機能が強力で血液が勢いよく肺を通りすぎるため、海抜ゼロ地点でも、高負荷の運動中には、持久系アスリートの約7割は動脈内の酸素量が減る。
  • 呼吸が激しくなるにつれ、血中の二酸化炭素濃度が低下し、脳に通じる血管が収縮する。その結果として生じる脳の酸素不足が、筋肉の動員を直接阻害したり、疲労感の原因になったりする。高所で育つケニアのランナーは、脳に通じる血管が多いうえに血管壁も厚く、より圧縮されにくい。
  • 体温。深部体温よりも脳内の温度が最終的な限界を左右することが示唆されている。
  • 脱水ではなくのどの渇きを避けることがパフォーマンスには重要。
  • 糖質ドリンクでうがいをして吐き出すと、fMRIで脳の報酬系と関わる領域が光る。「セントラル・ガバナー理論に当てはめると、さらにエネルギーが調達できるとわかったため、脳が安全マージンを緩和したかのように思える」。

バークは2016年、“スリープロー”という方法を使った2つの実験結果を発表した。これは夕方に糖質をエネルギーとする高強度のトレーニングを行い、その後、糖質抜きの夕食を摂り、翌朝は朝食前に、糖質が枯渇した状態で中強度のトレーニングを行うというものだ。このサイクルを3回繰り返し、合計6日かけただけで、自転車20キロのタイムが3%向上したという。

  • 一流の持久系アスリートは島(島皮質)がいつもある程度活性化している(対照群ではほとんど見られない)。自分の信号の監視に熟練し、不快感が生じてもそれに対処できるよう警戒している。
  • 大事なのは「判断ではなく自己認識」。マラソンランナーなら、脚の痛みや息切れによって感情を乱されるのではなく、ペースの調節に使う情報源とする。心拍数など客観的なデータに頼るとリスクは減るが、場合によっては自分を制限し、大きく躍進する可能性も閉ざす。テクノロジー依存は「知覚と行為の結びつきを弱める」

最後に、信じることに関する引用2つ。

彼らが先頭といっしょに走るのは勝てると思うからだ。もし勝てないという現実を突きつけられても、気を取りなおしてまた翌日に挑戦する。ケニア人ランナーは何世代にもわたり、国際的な優位を占めてきた。そうして培われた信念が自己成就的な予言になるのだ。」

「耐久力が試されるほぼすべての競技で、すこしずつではあっても、世界記録が更新され続けている。これは一見、トレーニングや栄養、水分補給などに関する知識が深まり、さまざまなテクノロジーが進化したおかげだと思われるかもしれない。だがそうしたものは、競馬などにも応用されている。(…)
ケンタッキーダービーやダービーステークスのようなメジャーな競馬レースの優勝タイムは、1950年頃からほとんど変わっていないという。一方、同じ期間のメジャーなマラソン大会の優勝タイムは更新され続け、15%以上も縮んでいる。(…)
仮想のライバルを追いかけられるのは人間だけだ。誰かがどこかである距離を1分59秒4で走ったと知っていれば、自分はその距離を1分59秒3で走ることが可能だとわかる。」

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