「シャクシャイン戦記」を読んだ

Posted on 2011年1月2日. Filed under: 未分類 | タグ: , , , , |

シャクシャイン戦記」(大森光章)を読んだ。17世紀、松前藩の圧政に対して起きたアイヌ民族の一斉蜂起「シャクシャインの乱」を描いた本だ。

シャクシャインって誰? どこの人? って人は以下のウェブページなどをどうぞ。

参考:

作者によるあとがきに、資料は松前藩、津軽藩、幕府によるものしか残っておらず、アイヌ側は文字による記録をまったく残していないことから、たとえばアイヌの人物の年齢や人間関係などは「筆者の貧弱な想像力に頼るしかなかった」とある。

この小説で、シャクシャインは智略に長けてはいるが、怒りに駆られやすく行動を誤ることもある人物として描かれており、同じくアイヌの蜂起を扱った「聖コシャマイン」(若岡直樹)のように極端なカリスマ化はされていない。トカチ(十勝)のポンペツ(現在の本別町)の出身だが、人妻(幼なじみ)との密通の罪で20歳のときに村を追放された過去があり、アイヌの習俗にあまり明るくない、アウトサイダー的な人物でもある。

「戦記」としての読みごたえを期待すると、以下2つの点がマイナスだ。

「御味方アイヌ」(松前藩に恭順するアイヌ)であり、シベチャリ(現在の静内川)西部に進出してきたシュムクル(西の衆)、特にハエ族の首長オニビシと、メナシクル(東方の人びと)の首長をカモクタインから継いだシャクシャインとの抗争、チャシ(砦)の攻防にかなり紙数が割かれていて、ちょっと退屈。
また、肝心の一斉蜂起がはじまってからは、遠征軍の半分を先攻め隊として松前藩の前線基地クンヌイ(現在の国縫川あたり)に送りこむが、シャクシャイン自身はシュムクルのサル衆・ハエ衆の抱き込み工作にあたる。先攻め隊は敵と遭遇すると夜襲や山岳戦ではよく戦うが、結局は「鉄砲」の圧倒的な威力の前に敗れ撤退する。シャクシャイン自身が出る前に戦いはほぼ終わってしまうのだ。

が、シャクシャインの命を受けたチメンバ、ウエンシルシらが各地の集落を巡って檄を飛ばし、マコマイ、シラオイ、ノボリベツ、そして西岸のフルピラ、シリベツ、イソヤ、オタスツなどへと蜂起が広がり、次々と松前の船(鷹師船や交易船)の焼き討ちが起こっていく流れはダイナミックで、強く印象に残った。

当時、道内のアイヌ人口約二万人に対して、松前城下の和人は3500人、うち家臣団は100人に過ぎなかったという記述があるから、アイヌが本当に結束すればにわかであっても松前藩を追い落とすことはできたかもしれない。
しかしアイヌ人たちは松前藩との交易を通じて酒や煙草などの嗜好品・贅沢品への依存を強めていたこと、御味方アイヌという存在が示すように恐らく分断政策が敷かれており、アイヌ民族全体に統一的な意思決定の仕組みもなかったことなどで、不平等貿易などさまざまな抑圧・搾取をなし崩し的に呑んでいかざるを得ない面もあったのだろうと思った。

以下、自分用メモも兼ねて脱線。
アイヌ神謡集」(知里幸恵)の後ろに知里真志保氏(幸恵氏の弟でアイヌ語学の大家)による「神謡集について」という解説があって、これが面白い。解説では、アイヌの物語文学を以下の4つに分けている。

韻文物語

  • 熊、狼、シャチなど自然神を主人公とする「カムイユカル」
  • アイヌラックル(人間の始祖)という人格神を主人公とすす「オイナ」
  • ポイヤウンペ(美しい少年)という人間の英雄を主人公とする「ユーカラ」

散文物語

  • 実在のアイヌ部落と酋長の体験談「ウエペケル」「ヅイタク」

オイナの時代は、シャーマンを兼ねた大酋長の支配のもと原始的な焼畑農業が行われていた時代。ユーカラの時代は、大陸から渡来する異民族と戦うため各地の酋長による部族連合が作られ、総リーダーがおし立てられた時代。そしてウエペケルの時代には松前貿易も登場する、とある。

ぼんやりと浮かぶ疑問は、ユーカラの時代、「レプンクル(沖の人)」や「サンタウンクル(山丹人)」と戦うために結束して苦難を乗り越えたアイヌ民族が、なぜ和人の侵略に(間歇的な反乱はあったものの)はっきりと抗う姿勢を取ることがなかったのか、という点だ。

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