「Webアクセシビリティ 標準準拠でアクセシブルなWebサイトを構築/管理するための考え方と実践」の攻略法(またはチートシート)

Posted on 2008年6月11日. Filed under: Accessibility | タグ: , |



Ahchan on Web Accessibility book

Originally uploaded by jetalone

Webアクセシビリティ 標準準拠でアクセシブルなWebサイトを構築/管理するための考え方と実践」を、ようやく全部読み終わった。600ページを超える大部で、重さは2kg近い。

この黄緑本(題名が長く適当な略称も思いつかないので、「黄緑本(きみどりほん)」と呼ぶ。勝手に付けたもので、ラクダ本やシロクマ本のような通称ではないので注意)、評判はいいので、ウチ((株)アークウェブ)の社員をはじめ、意欲あるWeb屋の積ん読リストに収まっているケースが多いだろう。

原著(“Web Accessibility: Web Standards and Regulatory Compliance“)は2006年7月に書かれ、日本語訳は2007年10月に出版と、やや古くなっている部分もあるはずだけど、とてもよい本だ。1人でも多くのWeb屋が、この本に取り組んでくれることを願う。

訳者代表である渡辺隆行さんは、序文でこんなことを書いている。

Webコンテンツのアクセシビリティ・ガイドラインはこのように整備されたが、世の中にあるWebサイトのアクセシビリティはそれほど進んでいない。(…)Ajaxに代表されるダイナミックなインタラクションが普及しつつある今日、このままでは日本のWebアクセシビリティが欧米で実現しているレベルから取り残されてしまうという危機感を我々は持っている。

」(16ページ)

多数の著者による共著であるせいもあってか、読み進みながら「この章は必読だな」「ここはあっさりしすぎ」などいろんな感想を抱いた。そこで、ぼくなりに各章の重要度をリスト化して攻略法(チートシート?)っぽくまとめてみることにした。
基準は以下の通り。

  • A:精読が必要
  • B:読む価値はあるが、拾い読みや速読推奨
  • C:勉強熱心なら読め

このリストを参考にしながら、まずはAの章だけは精読することを心がけ、黄緑本に取りかかろう。

このエントリーは主に弊社スタッフに向けて書くものだけど、同時に、この本を読むべき多くのWeb屋たちにもシェアする価値があると思い、オープンにしておく。

  • 序文:アクセシビリティの課題, 日本語版翻訳者による序文, 著者紹介, 翻訳者紹介【C】
    • 著者、訳者の方々はリスペクトすべきだと思うんだが、ここで挫折してしまうリスクを考慮してCに。この後の章を読んで、著者の主張に心打たれたり、首をひねったりしたときには眺めてみてもいいかも。
  • Introduction はじめに【C】
    • 「なぜ、アクセシビリティを気にしなければならないのか」などいい示唆もあるんだけど、ここも挫折リスクを考えてC。ただ「認知障害のある人のアクセシビリティについては他書に譲り、この本では扱わない」(40ページ)という指摘については、ここで留意しておこう。
  • 第1章 Webアクセシビリティを理解する【A】
    • Webアクセシビリティがどんな人たちに恩恵をもたらすか、どんな社会的意義があるのか、ビジネスにおけるメリットは、などを解説した章。長いけど必読。
      たいていの人は、一時的あるいは生涯にわたる障害を人生で経験し、アクセシブルな技術の恩恵を受けるだろう」「アクセシビリティに欠けるサイトがもたらす社会的な不平等とアクセシブルなWebの障害者に対する影響力を理解すれば、Webアクセシビリティに対して自分の役割を果たしたくなるだろう」(いずれも88ページ)などは、身が引き締まる指摘だ。
  • 第2章 法律およびガイドライン概論【B】
    • WCAG(Web Contetnt Accessibility Guidelines)や米国リハ法508条についてまったく知らなければこの先の実装編も厳しいので、ここに概略を持ってきたのか。まずはざっと読み流そう。で、後で「第17章 世界のアクセシビリティに関する法律と政策」「付録B リハ法508条電子情報技術標準ガイド」と合わせて復習するといいかも。
  • 第3章 大企業におけるアクセシビリティの実装【C】
    • 企業サイトでアクセシビリティ対応を定着させていくためにはチーム編成が大切、という話。あまり新味はないと思う。「第15章 サイト改善のケーススタディ:大学のWebサイトのリデザイン」の後などに位置づけられるべきで、なぜここにあるんだろう。
  • 第4章 アクセシブルな技術の概要【B】
    • HTMLとXHTML、CSS、JavaScriptなどの概要。Web制作者であればざっと拾い読みするぐらいで。
  • 第5章 支援技術:スクリーンリーダーとブラウザ【A】
    • この章は、IBMで元々DOS用のスクリーンリーダーを最初に作ったJim Thatcher氏が執筆。スクリーンリーダー、音声ブラウザ、画面拡大などの技術の概説といったところ。ここと一緒に「付録D 日本のスクリーンリーダー」も読んでしまう方が、一気にわかりそう。
  • 第6章 アクセシブルなコンテンツ【A】
    • この章の前半は、特に画像の等価テキストの解説に紙数がたっぷり割かれていて、正直お腹いっぱいになる。が、一度この章を読んだら、以後この問題をいい加減に扱う気にはなるまい。また「アクセシブルなテーブルを作る」という節も、音声ブラウザユーザーがテーブル(レイアウトテーブルでなくデータテーブル)をどう“読む”のかを知る上でとても参考になる。
  • 第7章 アクセシブルなナビゲーション【A】
    • 音声ブラウザでのリニアライズ(「読み上げ順序は、あなたが実際に目にしているページの表示とほとんど関係がない」(217ページ))、ナビゲーションリンクのスキップ、イメージマップ、リンクなど基本的要素の解説。
  • 第8章 アクセシブルなデータ入力【A】
    • サイト訪問者、サイト運営者双方にとってデータ入力の部分は最も重要、というわけでここは必読。不適切にコーディングされたフォームがいかに滅茶苦茶に読み上げられてしまうかなどは、すべてのWeb屋が知るべき。
      最後の「日本語環境でのフォームの読み上げテスト」も有用。
  • 第9章 アクセシブルなWebページのためのCSS【A】
    • CSSがいかにアクセシビリティに貢献できるか、という話。Tipsの寄せ集めという感じもあるけど、画像置換テクニックとしての「sIFR(Scalable Inman Flash Replacement)」や「フォーム要素のための見えないラベル」といった話は面白い。
  • 第10章 アクセシブルなJavaScript【B】
    • JavaScriptのサンプルコードが出てくるので、正直最も理解しづらかった章。本当はAにしたいが、非プログラマが乗り越えるためにはサンプルコード類はある程度すっ飛ばすべきという意味でBに。
      「ふるまいのレイヤー」、JavaScriptで新規ウィンドウを開く際の書き方などは参考になった。Ajaxの登場で最近多用される「使っている最中に変わり続けるフォーム」についても。
  • 第11章 アクセシブルなFlash【A】
    • Flashについては外部仕様ぐらいしか関わらないディレクターなどにとっても有用な内容。ぼくはMSAA(Microsoft Active Accessibility)について、この章で初めて知った。
      一時的に読み上げ順序から外す”とか、“段階的に情報を提供する”といった実装テクニックは、単純にコンテンツをリニアライズ(線形化)するという作業に留まらず、晴眼者であれば複数の情報やアクションをほぼ同時に捕捉可能な“リッチコンテンツ”を音声ブラウザのユーザー向けに再設計するタスクの一部であり、それはもはやUX(ユーザーエクスペリエンス)の領域じゃないかと思ったり。
  • 第12章 PDFのアクセシビリティ【A】
    • PDFは、日本の企業サイトなどでもコンプライアンスを考慮した資料などの配布に多用されているが、「アクセシビリティを確保するには、作成者がそのドキュメントに対して通常以上に注意を払わなければならない」(408ページ)。というわけで、この章はとても参考になった(Adobe Reader 7.0、Adobe Acrobat 7.0 Professionalの時点の話であり、2008年6月現在それぞれAdobe Reader 8.1.2、Adobe Acrobat 9 Proとなっているが)。
      やや横道だが、AdobeがPDFのアクセシビリティに注力しているのもアメリカにはリハ法があるからであり、そういう縛りが弱い日本のサードパーティ製のPDF作成ツールは大丈夫なんだろうか? 今度調べてみたい。
  • 第13章 アクセシビリティ・テスト【A】
    • アルゴリズム(自動化テスト)」と「人間による判断」を併用することを踏まえ、リハ法508条に対応する項目についてどうテストすべきか、という内容。具体的なフレームワークの解説があるのかと期待していたがあっさりとした内容で、その点は残念。
  • 第14章 WCAG 2.0の紹介【A】
    • 2008年中にはW3Cの正式勧告になるといわれるWCAG 2.0についての解説。WCAG 1.0に比べて量は膨大で「漸進的というより革新的」(476ページ)であり、ともかく大変そうなことがわかる。
  • 第15章 サイト改善のケーススタディ:大学のWebサイトのリデザイン【B】
    • イギリスのサルフォード大学のWebサイトを使ったケーススタディ。紙カタログに似せたデザインマナーの変更、複雑なテーブルレイアウトを適切にリニアライズ(線形化)できるよう修正、JavaScriptの修正などのプロセスを詳述。ただちょっと古い事例なので、拾い読み程度で。
  • 第16章 米国のWebアクセシビリティに関する法律の詳細【B】
    • 前半はADA(The Americans with Disabilities Act:障害をもつアメリカ人法)に基づく訴訟の判例、後半はリハビリテーション法508条の解説。ちなみにこの章と、続く17章を書いているのは、アクセシビリティのテストツールにちょっと詳しい人なら知っている”Cynthia Says“のCynthia D. Waddellさんだ。
      この章の翻訳はちょっとわかりづらい。
  • 第17章 世界のアクセシビリティに関する法律と政策【B】
    • グローバル企業のWebサイト構築に関わっていたりしなければ実利は薄いが、W3C、WAI、WCAGを事実上の標準として受け入れるヨーロッパと、アメリカの違いがわかって興味深かった。
      また、改めて世界のこれだけの国でアクセシビリティの法制化・規格化が進んでいる事実を知れば、やる気が湧くという効用もある。
  • 付録A 用語集【B】
    • 最初からきちんと読んでくれば頭に入っている語句ばかりだが、復習も兼ねて読もう。
  • 付録B リハ法508条電子情報技術標準ガイド【B】
  • 付録C PAS78 アクセシブルなWebサイトの委託制作実践ガイドの概要【C】
    • あっさりとした説明で、考え方が特に参考になるというわけでもない。
  • 付録D 日本のスクリーンリーダー【A】
    • 95Reader、PC-Talkerの使用法が解説されている。上述したが、この部分はできれば「第5章 支援技術:スクリーンリーダーとブラウザ」と合わせて読んでしまいたい。
      日本のスクリーンリーダーはHTMLの構造を利用したナビゲーション機能が弱いため、「Web制作者がガイドラインで要求されている以上の配慮をしなければならないことがある」(631ページ)という指摘は重要だと思う。
  • 付録E 日本におけるWebアクセシビリティの最新動向【A】
    • 短いが、高齢者大国・日本の状況を踏まえたJIS X 8341-3の特長、「みんなの公共サイト運用モデル」、来るべきWCAG 2.0に向けた国際協調の話など、重要な点を押さえている。

以上、それなりに悩んで優先度を付けてみた結果、全22パートのうち、A(精読が必要)は12パートと半分になった(ページ数だともっと多いが)。で、B(読む価値はあるが拾い読みや速読で)は8パート、C(勉強熱心なら読め)が3パート。

少し気が軽くなったんじゃないだろうか。ともかく、Aの部分は絶対読んでほしいんだ。
読んだら少し先へ進み、スタートラインに立てる。そうしたら、ぼくらの現実の制作物を少しずつ変えていこう。

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