「裸でも生きる」感想:強い渇きをおぼえる人は大きくなしとげる

Posted on 2007年12月20日. Filed under: book, poverty | タグ: , , , , , , |

ソーシャルアントレプレナー(社会起業家・社会企業家)やソーシャルベンチャー(社会貢献型企業)についての本が続々と出てきている。しかもそれらの多くが、現在進行形のビジネスを扱ったもの。風向きは変わってきたと感じる。
2007年は、日本で社会起業家に大きな注目が集まりはじめた年として記憶されることになるかもしれない(ぼくがこんな偉そうなことを言うのは申し訳ないんだけど)。

今年もあとわずかだ。後悔しないよう、今年自分が読み、またぜひ多くの人に読んでほしいと思っている本「裸でも生きる 25歳女性起業家の号泣戦記」を紹介しておく。

 

著者の山口絵理子さんについての記事や「裸でも生きる」の感想はすでにWeb上に沢山あるけど、彼女のすごい経歴を簡単にまとめるとこういう風になる。

山口さんは1981年生まれ。小学校時代いじめに遭い、中学時代は非行に走り、高校では男子柔道部に飛び込み、全日本7位に。慶応大学では開発学に出会う。インターンとして働いたワシントンの米州開発銀行で、国際援助の仕組みに疑問を抱く。そこでアジア最貧国バングラデシュへ。日本人初の大学院生として生活する中で、想像以上の貧しさや政治の歪みを体感。三井物産のダッカ事務所でのインターン中に出会ったジュート(麻)で「かわいいバッグ」を作り、途上国発のブランドをつくろうと決意、株式会社マザーハウスを起業する。

株式会社マザーハウスのWebサイトはここ。

株式会社マザーハウス 第一弾はバングラデシュのジュートバッグ
http://www.mother-house.jp/index.shtml

山口さんへの注目度はかなりのもので、最近のご本人のブログによれば

Elly’s blog: 風邪
http://www.mother-house.jp/ceo/2007/12/post_174.html

あ、そうそう。今日はいいニュースがあった。
なんとなんと、Business Week でアジアでホットな起業家に選ばれた。
今日アメリカから、卸先の問い合わせがあって、そのメールでおめでとう、と書かれていたのでびっくりした。

とのことだ。さらっと書いてあるが、すごい。

さて、本の感想を。

まず山口さんの文体は、簡潔だ。全体に舌足らずだし、悪文といっていいようなところもあるが、読み進むうちにそんなことは気にならなくなる。

ときどき思うのだが、行動主義の人の言葉は短くわかりやすい。対して、行動せずに(できずに)考えを巡らしてばかりいる人の言葉は冗長で複雑になる。
ぼくはWeb屋としていろんな顧客とのMtgに参加するが、大きな企業で中間管理職みたいな人たちが沢山いるMtgに参加すると、彼らの言説はなかなか洗練されている。語彙も豊富、言い回しもエレガント。が、あとで反芻してみると、意味のあることを実は何も言っていないということが多い。意思決定の仕組みが複雑で何も決められない、行動できない組織(や場)では、人はこうやってYes/Noまぜこぜのミルフィーユみたいな弁舌術ばかり発達してくるのだな、と思う。
それはその人の役割が規定するものでもあるだろうから一概によしあしは言えないが、ぼくはあちら側でなくてよかったな、とよく思う。

脱線してしまったが、この本は山口さんの行動が刻み付けられたものであり、だからこれでいいのだと思える。

ところどころ拾ってみる。

山口さんは慶応大学総合政策学部に入り、竹中平蔵教授のゼミで「開発学」に出会った。また憧れの国際機関でインターン職を得るが、そこで働く人たちの意識に驚く。「トップの人が現場を知らずに理論だけで政策を作っていては、結局NGOの人たちがあげてくる現場の声がまったく反映されない」と疑問を抱いた彼女は、サーチエンジンで「アジア 最貧国」と打ち込んで最上位にヒットした国、バングラデシュへ向かった。そこで想像を絶する貧しさを目にした彼女は、こう書いている。

どうしてこんな世界が今なお当たり前のように存在しているんだろう。
人類はこんなに発達して、携帯電話だってパソコンだって、水をきれいにする機械だって、全自動の洗濯機だってあるのに、どうしてこんな世界が今もあるんだろう。
日本や他の先進国が何十年と与えてきた、何十億、何千億、何兆円もの援助金はどこに消えちゃったのかな。
私の心は、睡眠を嫌うように、ずっとずっとものすごく大きな質問を私に与える。

大きな疑問を抱き、考えこむ。そしてその後大胆に行動する。彼女が大きくなしとげる秘訣はここにあると思う。

「フェアトレードはフェアじゃない」という節ではこう書いている。

汚職のはびこるこの国で、援助や寄付が求める人の手に届かない一方、民間セクターは安いものを大量生産している。
そして、いわゆるフェアトレードと呼ばれる商品を生産している社会の底辺にいる人たちは、悪い品質でも心温かい先進国のバイヤーに買われる。結局消費者の満足にはほど遠い商品が作られ、かわいそうだからという気持ちで買われ、使われずにタンスにしまわれている。

援助では役に立たない、バングラデシュの人がプライドを持って働ける仕組みこそ大切、と考えるのだ。
この点マザーハウスは、よい商品の提供、利益の拡大、雇用の創出といった企業の従来の存在意義と、社会的正しさの実現という価値をより高いレベルで合致させようという志を持っているはずで、やはり「社会的な」企業だと言っていいと思う。

会社を興し、未経験のビジネス現場に苦戦する彼女は、挫折しそうになり、こう書く。

ビジネスの世界で戦うと決めたのに、「社会的な意義」をアピールすることは、そういった要素に頼ってしまっている証拠だ。「社会的な意義」を商談に持ち込んで、それでモノを売ろうとする自分の根性に、甚だ嫌悪を感じた。モノの意味や、心のコアにあるたくさんの熱い想いを社会に伝える場や方法はたくさんあるわけで、卸先や取引先へ伝えるべきものは、まったく別ものだ。

思わず唸ってしまいたくなるほどの(ぼくはこの一節を読んで実際に唸ったけど)、信念の強さを感じる。この点、いわゆる「社会的企業」であることに甘えない強さ、それが山口さんを輝かせているんだと思う。

さらにすごいのが、現地工場の離反、非常事態宣言まで出る政情不安の中での心情を綴ったこの部分だ。

どんなに政治が不安定でも、どんなにインフラが整っていなくても、どんなに自分自身が痛い目に遭っても、私はこの地に希望の光を灯すことを信じて、ここまでやってきたんじゃないのか。
何年かかるかわからないけど、いつかきっと騒音と暗闇のこの国に、明るい光が灯ることを夢見て。
いまあきらめて帰ったら、私は他のバイヤーと同じだ。そんな夢を持ちながら、信念をもってやってきたんじゃないか。だれだって人を裏切りたくて、裏切るわけじゃない。裏切ることが必要な社会が人間をそうさせる。貧しさが人間の理性を奪い、人を傷つける大きな武器になるんだ。
だとしたら、やはり貧困という巨大な怪物にアプローチするなにかが必要であり、それはやはり援助では変えられない。
だからマザーハウスが生まれた。
「いま、私がここであきらめたら、いったいだれがこの国に光を灯すんだ」
思えば生意気で自分勝手な使命感だと思う。けれど、それもよかった。

彼女は、あきれるほど大きなものを勝手に背負っている(失礼な表現だが)。

こういうアツさを持った人が今同じ時代を生きていると想像できるのは、本当にうれしいことだ。ここまでプリミティブで精神的膂力がほとばしるような言葉を、たとえ経営者であってもいったい何人の日本人がはっきりと口にすることができるのか? と思う。

「エピローグ 裸でも生きる」で、山口さんはこう書いている。

私は、学校でも、柔道でも、そして大学生活でも、つねに一番にならなきゃ意味がないと思ってきた。競争に勝ったものだけが言える言葉があり、また見える世界があると信じて行動してきた。つねに人と競争し、比較し、相対的な価値観に頼り生きてきた。

とはいえ学校にしろ、柔道にしろ、大学生活にしろ、彼女が「一番にならなきゃ」とやってきたことはかなりエキセントリックであり、また並大抵の努力でできることじゃない。「相対的な価値観」に従っていたというが、頂上のめざしかたでは、人の模倣をしたり最適ルートを探したりといったスマートさはほぼない。

山口さんは、他の多くの人間が持っていない「渇き」を常に感じているんじゃないかと思う。強く渇く人は、乾燥したスポンジがぐんぐん水を吸い取るように、やりがいや意味を求めて大きく成し遂げることができるんじゃないか。

また、こんな見方もできる。
強い渇きを持った人が現場に行けば、疑問が生まれる。疑問を抱くことは問題解決のはじまりだ。そして問題を深く知ろうと入っていくとそれは行動に変わり、解決に近づきはじめるのだ。

ぼくが取り上げた山口さんのメッセージを読んで、少しでもモヤモヤしたりムラムラしたり胸が熱くなったりした人は、絶対にこの本を読むべきだ。社会起業家や、貧困問題や、バングラデシュに興味があるかないかは関係なく。

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