「朝子さんの一日」「朝子さんの点字ノート」感想:目の不自由な人の生活や心を知るよい手引き
昨夜はWebSigエコピの勉強会(11回め!)。
ぼくのミニ発表は、「朝子さんの一日」「朝子さんの点字ノート」という目の不自由な人の生活や心をテーマにした本をネタにした。
Amazon.co.jp: 朝子さんの一日―目の不自由な人の生活を知る絵本: 永原 達也,大中 美智子
http://www.amazon.co.jp/dp/4098373017/miqqle-000-22/ref=nosim
Amazon.co.jp: 朝子さんの点字ノート―目の不自由な人の心を知る本: 河辺 豊子,大中 美智子
http://www.amazon.co.jp/dp/4098373025/miqqle-000-22/ref=nosim
「朝子さんの一日」は、「目の不自由な人の生活を知る本」という副題が付いていて、晴眼者(せいがんしゃ:目が見える人のこと)にはわからない視覚障害者の日常生活を紹介する絵本、という体裁。
この本ではたとえば、
- 目の不自由な人向けに「点字毎日」という新聞(週刊)がある。
- 目の不自由な人にとって、最近家電で主流のフラットシート型ボタンや液晶リモコンは使いにくい。
- 点字ブロックの上に放置された自転車は本当に困る!
- 日本では、一般の学校に障害を持つ子供を通わせないケースが多い。だから大人でも対応の仕方に戸惑うことが多い。
といったことがわかる。
一方、「朝子さんの点字ノート」の副題は「目の不自由な人の心を知る本」となっていて、朝子さんを主人公にした小説仕立てだ。話は、朝子さんが健常者の夫と結婚するまで、出産や育児、家族旅行、子供のいじめ、夫の転勤とドラマに満ちている。
目の不自由な人の小さな体験や内面に踏み込んで描写しているので、ところどころハッとさせられる描写が多い。いくつか引用してみる。
息子の「光」が、ハチを捕まえたと朝子さんの会社に電話をかけてくるエピソード。
「
「(…)ティッシュにくるんで大事に置いてあるから、楽しみに帰ってきてね。だってお母さん、ハチ、さわったことないでしょ。飛んでるハチなんてさわれないものね」
(…)
夕方帰宅。ハチをそうっと指でなぞる。きれいなものだな、とまず思う。胴がキュッとくびれていて、羽が薄く優美だ。
」
(いや当たり前だが、)目の不自由な人は飛んでいる虫に触れることはできないし、触れないということは形も含めてわからないということなんだ。
全盲でありながら、ほぼ人手を借りずに育児をする朝子さんの様子はこんな感じだ。
「
育児では、感覚をフル活用する。
私たち視覚障害者は五感の内、視覚を除いた「聴覚」「触覚」「嗅覚」などをフルに回転させ、あらゆる情報をキャッチし、対応し、処理していく。
育児もその例に漏れない。いや、その最たるものと言えるだろう。子供の泣き声・笑い声やトーン、手や脚など体を動かすことによって、たてられる音に耳を澄まし、口の匂いや、便の匂いに鼻を利かせ、肌のつやや湿りぐあい、そして、子供の様子いかんでは、便にだってさわってみる。
」
ここはなかなかすごい。
この後、タバコを飲み込んでしまった娘「みどり」の口の匂いを嗅いで、朝子さんが危険に気づくというシーンもある(喫煙者の夫はわからない)。
ぼくが一番いいなと思ったのは、千葉の銚子へ家族旅行に行き、朝子さんが一人で露天風呂を楽しむシーン。
「
なんと波の音が、大きく聞こえるではないか。
私は歓声をあげた。
「波の音を聞きながらお風呂に入れるなんて、ほんとうに感激」
すると、三人組の奥さんの一人が言う。
「海も見えるし、犬吠埼灯台も見えるんですよ」
「あら、あの白いのカモメかな、違うかな、でも鳥みたいたよね」
と、別の奥さんが言う。
「まあ、それじゃあ見晴しがいいんでしょうね」
自然に私も言葉が出る。
「そう、とても見晴しが良くて、最高の露天風呂なのよ。この風で雲もどこかへ飛んで行っちゃったみたいね。明日はきっと晴れますよ」
」
目の見えない人には露天と屋内の違いなどそれほどないだろう、という、ちょっと考えればわかるような思い込みが覆される。それだけでなく、実は健常者のぼくらだって自然や環境を、五感を使って体験しているんだ。
またこのシーンは朝子さんの体験がわかるだけでなく、健常者が目の不自由な人とどうコミュニケーションをしたらいいのかという点でも、やさしい答えになっているのではと思った。
この本には他にも、「駅のホームは視覚障害者にとって特に危険なので、余裕があれば声をかけて」とか「一緒に食事をするときは、手助けは最小限に。その代わりテーブルの上の様子を説明してあげて」など、実践的な内容も詰まっている。
最後に。この本を読もうと思ったのは、ど真ん中だけどこんな理由から。
CSR(企業の社会的責任)について学び、企業の「社会的な存在」という側面について考えた。で、たとえば企業が社会に与えうるインパクトという点を考えても、本業外の社会貢献や寄付より先に(その意義は当然高まっているが)、「本業」をまっとうにやるべきだろうという考えに至った(そんなことはCSRの本には大抵書いてあるが、腑に落ちるまで時間がかかったという話)。
ぼくは音声ブラウザ対応を必須要件とするWebプロジェクトに関わったことはあるし、IBMホームページリーダーも使ったことがある。が、目の不自由な人がWebブラウズしている様子を見たことがないのはもちろん、どんな生活をしているのかも知らないなぁ。で、Webでたまたま見かけた「朝子さん」シリーズに興味が湧いたというわけ。
Web屋やIT屋さんでこういう世界を知らない人は、読んでみることを勧めます。



僕はハチの「きれい」という表現が一番気になりました。
> ハチをそうっと指でなぞる。きれいなものだな、とまず思う。胴がキュッとくびれていて、羽が薄く優美だ。
こういう感じ方は、目が見える僕らには中々できない。
目が見えることで感性が限定されてしまっている。
今度本貸してください。
朝子さんの感じ方を知って、もっと視野を広げたいです。
K△Y
5月 1, 2008
私の母が目の不自由な方の為に「音訳(新聞や書籍を朗読して吹き込む)」の仕事をしていますので、この本にはとても興味がわきました。ぜひ母と一緒に読んでみようと思います。
crema
5月 1, 2008
@K△Yくん
貸します。B’)
@cremaさん
あ、そうなんですか。
何人か知り合いを辿っていくと、きっとそういう方っているんですよね。そのことをリアルに感じながら、こういう問題に興味を持ち続けていきたいなぁ、と。
nakano
5月 2, 2008